耳鼻咽喉科・頭頸部外科
診療内容

 

難聴

 難聴の原因となる疾患は加齢に伴う難聴、耳垢による難聴、中耳炎による難聴、外耳道腫瘍による難聴、原因不明の難聴、中枢性の腫瘍による難聴など様々で、疾患に応じて適切な治療を行う必要があります。聴力検査はもちろん、必要に応じて聴覚機能の検査を行い、耳の中は顕微鏡や内視鏡などを用いて観察します。鼓膜の奥(中耳)についてはCTを可能であれば同日に撮影し評価を行っています。CTは従来のCTに比べて被ばく量が約7分の1でありながら、精細な描写が可能なコーンビームCTを用いています。疾患に応じて保存的治療や手術などの治療法を検討していきます。

・突発性難聴
 突然片側の耳が聞こえなくなる原因不明の難聴です。感音性難聴といって耳の奥にある内耳や聴神経の障害で起こります。確立された治療法はありませんが、ステロイド投与が一般的に行われており早期に投与する必要があるとされています。当院では原則外来通院にてステロイドなどを用いた治療を行いますが、外来通院困難な方や、重度の持病をお持ちの方は入院にて治療を行っております。

 

顔面神経麻痺

 顔の片側の筋肉の動きが悪くなり、目が閉じれない・口から水が漏れる・味覚がおかしい・耳が痛いなどの症状をきたす病気です。多くはウイルス感染の関与しているとされ、顔面神経の炎症・腫脹をひかすためにステロイド投与が有効です。当院では原則外来通院にてステロイドなどを用いた治療を行い、良好な治療成績を挙げております。しかしながら中には水痘・帯状疱疹ウイルスによるハント症候群といわれる治りの悪い顔面神経麻痺があります。当科では以前より顔面神経麻痺の評価法についての論文を報告しており、学会でも数多くの発表を行っています(論文・学会発表 参照)。現在は客観的な評価をより正確に行うための研究を行っています(患者の皆様へ 参照)。これらの評価法は治りにくいかどうかの予後診断に役だち、重症で予後が悪いことが予想される場合には手術治療も選択肢に挙げています。

 

めまい

 めまい・ふらつきの原因ははっきりしないことも多いですが、外来でできる限りの検査を行い診断・治療を行います。耳の奥にある内耳という部分の障害で起こる末梢性めまいと脳梗塞や脳出血、脳腫瘍などの症状としておこる中枢性めまいがありますが、特に命にかかわることもある中枢性めまいについては当院の脳神経内科と連携し診断を行っております。

・外リンパ瘻
 重いものを持ったり、トイレでいきんだり、くしゃみをした際に内耳に圧がかかり、内耳の中にあるリンパ液が漏れだす病気です。めまいとともに耳鳴りや難聴がおこります保存的に経過を見ることもありますが、症状によっては手術が有効なことがあり必要に応じて緊急手術を行っています。できるだけ安全で低侵襲であることを心掛け、内視鏡を用いた手術を行っています。多施設共同研究として新規診断マーカーCTPによる検査にも対応しております(患者の皆様へ 参照)。

 

耳手術

 耳の手術は、2010年に耳科手術を専門とするスタッフの着任以降、手術件数は増加傾向にあり、2013年からは毎年100件以上の耳科手術を行っております。大学病院・サージセンター以外の一般総合病院としては全国屈指の手術件数であり、当院の耳科手術が地域の患者・近隣の医療機関にご評価頂いているものと思います。

 手術内訳としては慢性中耳炎や真珠主性中耳炎などに対する鼓室形成術が最も多く、他にも鼓膜形成術、アブミ骨手術、顔面神経減荷術、外リンパ瘻閉鎖術、側頭骨悪性腫瘍手術なども行っております。2015年からは一部の症例には内視鏡下耳科手術を導入しています。手術の際の切開も小さくて切開創も目立ちにくく、さらに低侵襲となっております。また小児症例や、心疾患・肺疾患・精神疾患・抗凝固剤が切れないなどの既往症のある症例でも適応があって患者が望めば手術を行い、合併症の少ない、安全・安心な手術が実現できています。

 

鼻内内視鏡手術

 鼻・副鼻腔領域では最先端の手術機器・支援機器を用い体への負担が少なくかつ短時間の手術を行っています。基本的に内視鏡を用いた鼻内内視鏡手術を行います。2013年度より鼻・副鼻腔手術用の磁場式ナビゲーションシステムを日本で2番目に導入し、より安全に手術が行えるようになりました。副鼻腔手術は全例にナビゲーション併用の内視鏡下手術を行い、年間100件を超える手術を行っております。2018年は鼻・副鼻腔手術として154件の内視鏡下手術を行いました。

 術後の創傷治癒を促進し出血・感染のリスクを減らすために、アルギン酸塩の創傷被覆材を使用したウェットドレッシング療法を鼻の術後処置に取り入れ、良好な成績をあげています。耳の手術同様に、従来のCTに比べて被ばく量が約7分の1でありながら、精細な描写が可能なコーンビームCTを用いて鼻・副鼻腔の状態を評価しています。手術の際は0.25mmの厚さで撮影したCTの情報をもとにしたナビゲーションシステムで術中に鼻内の状態を確認しながら手術を行います。

 

口腔・咽頭

扁桃摘出術

 咽頭・口腔領域では口蓋扁桃摘出術(アデノイド切除術)が最も多い手術であり、年間50~70件ほどの手術を行っています。当科では超音波メスを用いて口蓋扁桃摘出術を施行しており、最近の平均手術時間15分程です。手術指導および手術支援機器の利用により手術時間が短縮され、低侵襲手術の実践が可能となっています。

 

唾液腺腫瘍

 唾液腺腫瘍の中でも耳下腺腫瘍については、当科で多くの手術を行っております。過去14年で350件の手術治療を行いました。顔面神経が耳下腺の中を走行しており、手術の際には丁寧な手技が必要となります。頸部エコー・CT、穿刺吸引細胞診などで術前評価を十分行い、症例によってはより負担の少ない術式として、顔面神経末梢枝からの逆行性アプローチを採用しております。

 

甲状腺

甲状腺手術

 当科は日本内分泌外科学会専門医制度の認定施設です。40年以上前から甲状腺手術に積極的に取り組んでおり手術症例の記録が蓄積されています。甲状腺・副甲状腺外科領域では専門性の高い治療を行っており、症例数でも日本の甲状腺外科をリードしていると考えています。当院は甲状腺専門病院ではなく総合病院でありますので、他の持病や既往症があっても治療に取り組むことができますし、リンパ節に転移がある症例や周囲の組織に浸潤がある症例であってもきちんと評価し治療を行います。また総合病院であるため合併症がある方であっても他科と連携の上で治療を行うことが可能です。

 甲状腺癌では全例に全摘手術を行う施設もありますが、術後残存葉に再発しないかわりに必ず甲状腺機能低下症になるため甲状腺ホルモンの内服が一生必要になります。当科では、術前に頸部エコー・CT、エコーガイド下穿刺吸引細胞診などで正確に病期診断し、可能であれば最小限かつ必要な範囲の切除にとどめ機能障害の軽減を目指しており、良好な治療成績を得ております。治療方針にかかわる術前診断は非常に重要ですが、年間約6000例の頸部エコーを甲状腺に関してだけでも行っています。また細胞診の診断能力を向上するべく新しい機器を開発したうえで、全例エコーガイド下に年間約600例の穿刺吸引細胞診を行っています(論文・学会発表その他 参照)。

 当科では単純な甲状腺葉切除であれば60分以内に終了し、声帯麻痺や術後出血などの合併症をみとめることは1%以下です。甲状腺良性腫瘍は基本的に手術を行ないませんが、手術が必要な場合もできるだけ低侵襲に行うべく局所麻酔下で30分もかからない核出術を行っています。また症例は限られますが、内視鏡併用での2~3cmの小切開手術にも取り組んでおり、その傷跡はほぼわからないものになります(論文・学会発表 参照)。

 バセドウ病についてはDunhill法という甲状腺片葉の一部を残す合併症が少ない手術を行い、術後の治療成績も良好です。原発性および二次性副甲状腺機能亢進症の内分泌外科的手術も多く行いこちらも良好な治療成績を挙げております。

 

喉頭-音声-

音声障害

 音声機能領域に対しても力を入れており、音声専門外来を行っています。音響分析ソフト「VA」を開発し外来で実際に使用していますが(2011年に論文発表)、そのほかにも電子内視鏡、ストロボスコピーなどを用いて音声障害を詳しく分析し、音声外科手術に役立てています。音声障害の診断のために人工知能を用いた研究なども行っています(論文・学会発表 参照)。音声障害は手術によって改善が期待できる方だけではないこともあり、声のリハビリである音声治療を言語聴覚士とともに行っています。

 声帯ポリープ・ポリープ様声帯などに対しては入院の上で顕微鏡下喉頭微細手術を行っています。症例によっては再発を防ぐために音声治療を手術前後にしてもらっています。声帯を動かす神経の麻痺による嗄声・嚥下障害に対してはPTFEテープを用いた甲状軟骨形成術Ⅰ型と披裂軟骨内転術などを症状に応じて組み合わせて行い、良好な音声の改善、嚥下機能の改善を認めています。けいれん性発声障害という声帯の異常な動きを起こす病気に対しては、2018年に保険適用となったボトックス注射および甲状軟骨形成術Ⅱ型のどちらの治療も行える数少ない施設の一つとなっています。

 

頭頸部がん

頭頸部がん治療

 地域がん診療拠点病院として、また日本頭頸部外科学会頭頸部がん専門医指定研修施設として専門性が高いだけでなく、患者の視点に立った医療を提供しています。頭頸部悪性腫瘍は、治すとともに機能温存や外観の維持も重要な要因となりますが、一般に手術治療では多少なりとも機能障害が出現します。一方放射線治療が中心となる治療でも唾液減少や疼痛、嚥下障害などの障害が残ることもあります。がんを治すということはもちろん治療後の生活も考慮したうえで、どのようながんでも手術で摘出するというような方針ではなく、耳鼻咽喉科内での検討はもちろん、放射線科と密に連携を取った上で治療方針を検討しています。治療が適切であるかを検討するために、最新の知見だけでなく、過去何年かの治療成績を解析しフィードバックすることで日々の治療に生かしております。2018年の頭頸部癌の新患者は147件でしたが、再発症例も含めると手術症例は124件で、それ以外の放射線治療・化学療法(抗がん剤)・緩和療法症例も57件ありました。

 咽頭癌では早期癌・進行癌ともに、明らに手術治療が有効である場合は手術治療を選択しますが、放射線化学療法が有効である場合には積極的に化学療法(抗がん剤)併用の放射線療法を行っています。当院ではより合併症の少ない強度変調放射線治療を導入しており多くの症例で使用していますが、化学放射線療法では、治療中の有害事象、特に粘膜炎とそれに伴う疼痛が問題になります。当科では粘膜炎と疼痛について詳細に検討し、鎮痛剤の選択とその投与方法についての検討も行い疼痛の軽減を図っています。

 地域の基幹病院として地域連携は重要な課題であり、頭頸部悪性腫瘍治療後で緩和治療を必要としている方への支援は近年難しい問題を抱えています。近隣の開業医や病院医師との研究会や勉強会を通じて良好な関係を築く努力が必要であり、病病・病診連携を一段と進め患者本位の心のある医療の実践に取り組んでいます。

・免疫チェックポイント阻害剤(オプジーボ)
 頭頸部がんにおいても2017年から適用は限られてますがオプジーボの使用が承認されています。当科が中心となり京都大学病院と協力し、オプジーボの治療成績の検討結果を論文として2019年に報告しています。

 

その他

穿刺吸引細胞診

 頭頸部の腫瘍において、治療方針を左右する術前診断は非常に重要です。頭頸部は皮膚に近いこともあり針を刺して細胞をとる穿刺吸引細胞診が診断に非常に有用です。当科では全例エコーガイド下に行うことで正確に腫瘍の細胞を採取し、その上で臨床検査技師(細胞検査士)がその場で細胞採取量が適切であるかの確認をしています。細胞がきちんととれる確率は90%以上であることが求められていますが、当院では問題なく達成してい ます。現在全例エコーガイド下に年間約600例の穿刺吸引細胞診を行っていますが、さらに細胞診の診断能力を向上するべく新しい機器を開発したうえで改善を目指しています(論文・学会発表患者の皆様へ 参照)。

 

エナジーデバイス

 診断を正確に行うことができないか、治療による合併症をなるべく減らすことができないかという一般臨床医にとって非常に重要なテーマを当科では大事にしており、色々な臨床研究のもと機器を開発したり、最新の医療機器を積極的に取り入れてきました。耳鼻咽喉科医のスタイルを変えるべく、耳鼻咽喉科医の象徴であるものの古色蒼然たる額帯鏡の使用をやめて、代わりに我々が開発し㈱モリタ製作所より販売されているLEDを使用したカーボンリングライトを2004年9月より全面的に採用しています。今でこそLEDは医療の世界でも当たり前に使用されていますが、20年近く前から明るい光源で診療を正確にスムーズに行えることをこころがけてきていました。

 エナジーデバイスは電気エネルギーを熱に変換し組織の切開・凝固を行う装置です。いわゆる電気メスもその一つですが、最近では超音波メスといわれるものや組織の接着により止血・凝固を行うベッセルシーリングシステムといったものが普及しています。当科では様々な頭頸部手術に以前から積極的にエネルギーデバイスを用いており、超音波メスを用いた扁桃摘出術(2003年発表)やベッセルシーリングシステムを用いた頭頸部手術2008年発表)について報告してきました。確実な止血による出血の減少やそれに伴う手術時間の短縮、結紮糸遺残による感染のリスクを減らすことができ、機械の性能の進歩とともに現在では結紮糸を一本も使わずに甲状腺手術を行ったり、2~3㎝の小切開での甲状腺手術を行うことも可能となっています。

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