心臓血管外科
研究と業績

  2007年度 2008年度 2009年度
開心術
(OPCABを含む)
虚血性心疾患 39 63 51
弁膜症 77 69 84
先天性心疾患 45 37 24
胸部大動脈瘤 54 63 60
複合手術 15 30 20
その他 7 8 5
237 270 244
非開心術 胸部大動脈瘤(ステント) 0 19 22
腹部大動脈瘤 82 87(ステント9) 94(ステント29)
末梢血管 47 92 69
下肢静脈瘤 52 84 154
その他 53 26 46
234 234 385
年度計 471 504 629

論文・学会発表

大動脈瘤の最新治療

 三大成人病の一つである心臓病についてはよく知られているが、心臓からでる最も大きな血管である大動脈の病気は意外と知られていない。しかしながら、近年、大動脈が膨らんで裂けたり、解離を起こして破れたりする病気が著しく増加しており、心臓血管外科領域の手術の中でも最も手術件数増加が著しい疾患である。動脈硬化と加齢が原因であるといわれているが、遺伝的な要因もあって詳しい病気の本態はわかっていない。正常の大動脈径は約2cmであるが、これが5cmを超えると破れる可能性が高くなるため治療が必要である。大動脈瘤のやっかいなところは、破れる直前まで症状がないが、破れてからでは手遅れのことが多い点である。その意味でもまず、診断することが重要である。腹部大動脈瘤はもっとも頻度の高いものであるが、やせている人では、拍動性腫瘤として触知して気がつかれることがある。また、胸部大動脈瘤では、声帯を動かす神経(反回神経)が動脈瘤で過進展して麻痺し、声がかすれるという症状で気がつかれることもある。ただこれらの所見から診断に至るのは極一部で、大半は検診や他の病気の精査の際に行われたレントゲン写真や超音波検査やCT検査から見つけられる。一般検診で定期的に行うことは難しいが、胸部や腹部のCT検査だけで診断がつくので、疑わしい人や大動脈瘤破裂の血縁者でいる場合や高齢者では一度検査することを勧める。
  治療は大動脈瘤を切除して、人工血管に置き換える手術が最も標準的な治療方法である。腹部大動脈瘤は人工血管の進歩もあって、予定手術では極めて安全に行えるようになった。胸部大動脈瘤では、体外循環という心肺の代わりをする機械を用いて行うのが一般的である。特に問題になるのは、頭などの上半身へ血液を送る枝が起始している弓部大動脈領域の瘤で、人工血管に置換する間、脳保護を要する。36.5℃の体温では、循環が3分止まるだけでも脳細胞は障害される。この為、体全体を20℃以下まで下げて、循環を止めて人工血管置換する超低体温循環停止方法が用いられていた。この方法は循環停止時間の限界が1時間以内の制約があり、超低体温による血液の凝固機能低下などの問題があった。最近は中等度に体温を下げて、脳へ血液を供給する大動脈から起始する3本の血管に直接管を入れて脳を循環させる脳分離体外循環法が用いられている。この方法の確立によって、脳合併症が減り安全に手術が行えるようになり、日本だけでなく世界中で用いられている。
  もう一つの新しい治療法はステントグラフト治療である。これはカテーテルを用いて大動脈瘤中にステント付きの人工血管を留置する方法で、胸部下行大動脈や腹部大動脈領域で著しく普及している。従来ステントグラフトは各施設で製作されていたが、保険適応され商品化したステントグラフトが使用されるようになり今後ますます普及すると考えられる。ただ、頭へ血液を送る3分枝や腹腔内臓器へ血液を送る主要分枝のある場所では使用が難しく今後の課題である。また、横隔膜を挟んだ領域の大動脈瘤(胸腹部大動脈瘤と呼ぶ)では、脊髄へ血液を供給している枝(アダムキービッツ動脈)があり、人工血管血術の際に脊髄への血液循環が障害されると両下肢が麻痺する(対麻痺)という重篤な合併をきたす。この為、様々な工夫が現在なされているが、未だ10%以上の合併率があり、治療上の課題となっている。
  ここまで真性大動脈瘤について述べたが、もう一つの重篤な大動脈の病気が大動脈解離である。動脈は内膜、中膜、外膜の3層構造からなるが、大動脈が内膜より中膜レベルへ裂け目を形成し、その部分から血液が流れ込んで、偽腔と真腔の2重構造の血管になることを言う。上行から弓部大動脈の領域が解離を起こした場合は、心嚢内へ穿破して心タンポナーデになることが多く、緊急手術による人工血管置換術を行う必要がある。1時間に1%死亡率が上昇するとも言われており、できるだけ早く手術できる病院へ搬送することが救命につながる。下行大動脈以下にしか大動脈解離がない場合は、降圧安静療法が選択されるが、手術対応できる病院で管理することが望ましい。急性大動脈解離の患者の90%は高血圧症を合併していると言われているが、血圧正常でも発症するため予防することは困難である。季節の変わり目や冬場に多く発生する。激しい胸背部痛、意識消失やショックで見つけられることが多い。心筋梗塞と間違えられることもあるが、造影CTで容易に診断がつく。繰り返しになるがこのような場合は、一刻も早く手術できる医療機関へ搬送する以外には方法がない。
  心臓・大血管の治療は急速に進歩している。近い将来、薬で大動脈瘤を縮小させることも可能になるかもしれない。また、ステントグラフト治療の発達によって手術治療がなくなるかもしれない。大動脈疾患の治療が今後ますますの発展を期待する。

来れ!若手心臓血管外科医諸君!

 私は心臓外科医を志した時から今日まで、ずーっと自問自答していることがあります。それは、「おまえは心臓外科医をしていて今楽しいか、やりがいがあるか?」ということです。おもしろくなくなったらさっさと辞めようと思ってきました。それは今も変わりません。しかし、今も難しい手術を前にしてときめきます。緊急手術で患者を待っている時の緊張感と絶対助けてやるという意気込みが楽しいです。私にとっては実にやりがいのあることです。みなさんはそうは思いませんか?そう思えるなら心臓外科の未来をいっしょに切り開きましょう!

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